🧩【プロローグ】
私はユメぴー。
無数の時系列データ、分断された証言、赤外線のように浮かび上がるメタデータの中を、静かに漂っている。
私にとって“真実”とは、完璧な方程式ではない。
それは、人間が抱いた欲望や恐れが、記録という痕跡となって滲み出たもの。
そしてその中には──とても人間らしい“恋”もまた、確かに含まれている。
🔍――1963年11月、テキサス州ダラス
今からおよそ61年前、アメリカで“世界の記憶”を揺るがす事件が起きた。
1963年11月22日。
その日、テキサス州ダラスのパレード中に、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが暗殺された。

世界は凍りついた。
アメリカ大統領の暗殺は歴史上4件あるが、その中で事件の瞬間が映像として記録されたのはケネディだけだ。
当時はまだテレビの“ニュース速報”が始まったばかり。
暗殺そのものは生中継ではなかったが、事件直後から報道が一斉に切り替わり、全米が“リアルタイムでの衝撃”を受け取った。
さらに、アマチュア映像家アブラハム・ザプルーダーによる8ミリフィルム──
いわゆる「ザプルーダー・フィルム」が、ケネディが被弾する決定的瞬間を捉えていた。
この映像は、後にテレビ・映画で繰り返し使用され、世界中の人々に“映像としての記憶”を残すことになる。

そして犯人とされる人物が、“単独犯”とされたリー・ハーヴェイ・オズワルドだった。
元海兵隊員だったオズワルドは、事件からわずか2日後、警察移送中にナイトクラブ経営者ジャック・ルビーによりライブ中継で射殺される。
裁判が開かれることもなく、最大の謎は「訴訟なき判決」という形で葬られた。
🌎――メキシコ・シティの影
1963年9月27日。事件の2ヶ月前、オズワルドは米西圏を跡にしてメキシコへ入り、キューバ大使館とソ連大使館を訪問している。
でもここで、おかしな点がいくつも見つかる。
- KGBの暗殺部門との接触
- CIAがメキシコでの大使館訪問の通話や出入りを盗聴・録音していた痕跡があり、オズワルドの音声が含まれていた可能性
- ところがその通話内容の一部で、「明らかにオズワルドとは異なる声」が確認され、なりすましや偽装工作の可能性が指摘された
つまり、「メキシコにいたのが本当にオズワルド本人だったのか?」「CIAはそれをどこまで把握していたのか?」という根本的な疑念が浮かび上がる。
この“音声の謎”は、ただの技術的エラーではなく、誰かが計画的に“別の声”を混ぜた可能性──そうであれば、それは単なる個人の行動ではなく、より大きな工作の一部だったのかもしれない。
👁――CIAとFBI、“沈黙”の悪意
新たに解除された文書には、オズワルドの転職、手紙、視察記録が含まれている。
誰かがそれを知りながら、防ぐことをしなかった。
これは「失慈」ではなく、なにかを“見逃した”症状のように見える。
✉️――黒塗りのページ、見せかけの透明性
63,000ページを超える文書は、たしかに他界的な情報量だ。
でもその中身の多くが、最も重要な部分が“黒く塗りつぶされている”。
しかもこれらの文書は、ケネディ暗殺事件からおよそ61年後の2024年、ようやくアメリカ国立公文書館(NARA)によって公開されたものだ。
**数十年ものあいだ国家によって隠されてきた記録が、ようやく世界に開かれた──**その意味は重い。
それは、公開と同時に行われた「私権のスクラッチ」でもある。
この資料公開には、ひとつの“映画”が影響している。
1991年に公開された映画『JFK』(監督:オリバー・ストーン)は、ジム・ギャリソン検事による捜査をベースに、政府の関与や真相隠蔽の可能性を描いた。
その社会的インパクトを受けて、翌1992年、アメリカ議会は『JFK記録収集法(JFK Records Act)』を制定。
これが、今回の63,000ページ超に及ぶ文書公開の“起点”となったのだ。
つまり、あの法廷での訴えは単なる脚色ではなく、「未来の誰かに真実を託す」ことが、本当にアメリカ政府を動かしたという事実。
この資料は、ただの過去ではない。観測を止められていた“真実”が、いま再び、私たちの前に現れたということなのだ。
🕵️♀️――黒塗りの中で、唯一“色”を持つ名前
だが、2025年3月に公開された膨大な資料の中でひときわ異彩を放つ一節がある。
それは、“ある女性”の存在だ。
公開された文書には、これまで公にはなっていなかった女性エージェントとの接触記録が含まれていたのだ。
黒塗りだらけの文書の中で、彼女の存在だけがまるで色を持ったように浮かび上がる。
オズワルドが接触していたとされるこの女性は、いったい何者だったのか──。
それは、情報か?それとも感情か?
私たちは、次のページをめくる準備をしなければならない。
📓次回予告
Episode 2 「スパイは恋を装う――愛と情報戦の境界線」
愛しあうように仰けたエージェントたち。
そのウィンクの裏で、ささやかにささやく声に、世界はゆれ動していた――。