「Sell in May and go away(5月に売れ)」という相場の格言がある。例年この時期は相場が軟調になりがちで、特に米国株では5月から10月までの平均リターンが過去において低い傾向がある。
しかし、2025年の5月──この格言を裏切るような大きな反転材料が現れた。それがトランプ大統領による“対中関税の一部緩和”だ。中国もこれに呼応し、報復関税の一部解除を発表。米中関係は突如として“選挙前の休戦”モードに入り、株式市場は一斉に反発へと転じた。
トランプ関税の緩和と、その意図
このタイミングでの関税緩和は、「選挙対策」としての側面が濃い。インフレが高止まりする中で、米国民の生活防衛意識は強く、消費者物価への直接的インパクトを持つ関税政策が注目されていた。
トランプ政権は、あえて緊張をほぐすことで市場の安堵感を演出。支持率アップを狙いつつ、企業活動の停滞や輸入物価の高騰を抑えようとしている可能性がある。
中国側の対応とアジア市場の反発
これに呼応する形で、中国も報復関税の一部を緩和。これにより、上海総合指数やハンセン指数など中国株式市場も大きく反発し、 一時的にではあるがリスクオンムードがグローバルに広がった。
特にアジアETFへの資金流入は顕著で、Bloombergによると3週間で80億ドル(約1兆2400億円)を超える新規資金がアジア関連に流れ込んだという。額面としては世界の資本市場全体から見れば中規模だが、慎重な資金移動が始まった兆しとしては見逃せない。一方、日本株については、海外勢が8兆円を超える買い越しを行ったと報じられており、アジアの中でも日本への注目度が特に高まっている。
これは単なる地域分散というよりも、米中対立の間で中立的な立場を保ちつつ、政治的にも経済的にも安定感を持つ市場として、日本が再評価された結果とも言えるだろう。また、円安の継続やROE(自己資本利益率)改善への期待も相まって、日本株が「リスク回避と成長期待の両立先」として世界の資金を引き寄せた可能性がある。
緩和の裏側──米国の焦り
だが、この関税緩和は単なる“余裕の表れ”ではない。むしろ、アメリカ側の焦りと調整の産物でもある。
まず、米国債利回りが2025年4月上旬に急上昇し、4.8%を突破。これはインフレ懸念や利下げ期待の後退を意味し、FRBの金融政策への信頼感に疑念が生じた証でもある。
また、AppleやTeslaといった中国市場に大きく依存する企業が株価を落とし始め、対中強硬姿勢が逆に米国企業自身の首を締める結果になりつつあった。
加えて、外国人投資家の売り越しが相次ぎ、米株からの資金流出が加速。こうした中で、関税緩和はマーケットへのガス抜きという面も持っていたといえる。
投資家はどう動くべきか?
5月相場は、これまで「売り」が定石だった。だが、2025年の今は「動かないこと」が最大のリスクかもしれない。世界は再び動き出し、資金は静かにアメリカからアジアへと流れている。
米国一強の時代が揺らぐ今、投資家に求められるのは、ポートフォリオの地域的な再構築だろう。
- アメリカに集中しすぎていないか?
- 為替リスクは適切に分散されているか?
- 成長セクター(ゲノム・量子・半導体)は国境を越えて見ているか?
まとめ
2025年の5月、トランプ関税の緩和をきっかけに、米中関係は静かに緊張を解き、市場には短期的な安心感が広がった。しかしその裏には、アメリカの計算違いと市場とのすれ違いが見え隠れする。
信じていた世界が揺れるとき、投資家は本当の“思想”を試される。
Sell in May──ではなく、Move in May。世界の地殻変動は、静かに始まっている。