(※この記事は前編です。次回は「テスラ構想は実現可能だったのか?」をテーマにした第2話をお届けします。)
序章:ロングアイランドに現れた謎の塔
20世紀初頭、アメリカ・ニューヨーク州のロングアイランドに、まるで空想科学小説から抜け出してきたような塔がそびえ立った。その名は、ウォーデンクリフ・タワー。この塔こそが、天才発明家ニコラ・テスラが“空気を通して電力を送る”という壮大な夢を託した建造物であった。
一見すればただの鉄骨の塔。だが、テスラにとってそれは「地球そのものを使って電力を送る共振装置」だったという。
テスラの夢:無線送電という革命
ニコラ・テスラが構想していたのは、ケーブルも電柱も使わずに、地球を巨大な共振器として利用し、どこへでもエネルギーを届けるという異次元の発明だった。
彼はこう信じていた。
“電力は人類共通の資産であり、空気中を通じて誰もが自由に利用できるべきだ。“
彼の言う無線送電とは、地球の内部と大気上層の間に電磁波を共振させ、地球全体を“共鳴するチューニングフォーク”のようにして、電力を空間へ放出し、離れた場所の受信機で受け取るというもの。
これが実現すれば、サハラ砂漠にいても、エベレストの山頂でも、スマホどころか冷蔵庫すらコンセントなしで動かせる世界が訪れたはずだった。
ウォーデンクリフ・タワーの構造:地上57メートル、地下30メートルの謎
この夢を現実にしようと、テスラは私財と支援をつぎ込み、1901年、ロングアイランドのショーレムにウォーデンクリフ・タワーを建設。
塔は57メートルの高さを持ち、頂部には巨大な球状のコイルが取り付けられ、下部には地下30メートルに及ぶ鉄構造の基礎が埋め込まれていた。これは地球と電気的につながるための導体であり、“地球の共振”を引き起こすための装置だったとされている。
内部には巨大なテスラコイルが備えられ、実験時には塔全体がうなり声のような振動を響かせたという記録も残っている。
テスラはこの塔を単なる実験装置ではなく、人類の未来を変える発電・送電施設として本気で構想していたのだ。
JPモルガンとの蜜月と、冷徹な終焉
資金提供者は、大財閥の銀行家JPモルガン。
当初、モルガンはこの塔が「無線通信のインフラになる」と信じて支援した。ちょうどマルコーニも無線通信の研究を進めていた時期で、競争の加熱も背景にあった。
だが、テスラが口を滑らせてしまう。
「電力も送れるようになります。つまり、世界中どこでも無料で電気が使えるようになるんです!」
……その瞬間、モルガンは黙って支援を打ち切った。
「無料の電力」が意味するのは、「誰も電気代を払わなくなる」ということ。
ビジネスとして成り立たないこの“理想”に、冷徹な資本家たちは背を向けた。テスラは瞬く間に資金を断たれた孤独な科学者へと転落していった。
崩れ落ちた夢と、塔の最期
資金が尽きたテスラは、塔の完成を目前にしてすべての作業を中断。やがて1914年、第一次世界大戦が勃発すると、政府はこの塔が「ドイツのスパイによって無線で情報を飛ばすために使われる恐れがある」として、塔の解体を命じた。
1920年代、ウォーデンクリフ・タワーは爆破解体され、鉄材はスクラップとして売却された。
この塔は一度も電力を送ることなく、その短い命を終えた。だが、その破壊された塔の残骸こそ、夢を砕かれた科学者の証しであり、彼の“未来”が現代を追い越していたことの象徴でもある。
テスラの晩年と“鳩の恋人”
塔の失敗後、テスラはホテル暮らしを続け、次第に世間から忘れられていった。
それでも彼の頭の中では、未来が静かに鳴り響いていたのだろう。彼はある日、こう語っている:
「私はある鳩を愛していた。彼女も私を愛していた。彼女の目からは、人間の目のような光が見えた。」
テスラの心の拠り所は、いつしか一羽の白い鳩になっていた。
そして彼の死後、彼のノートや図面の一部はFBIによって押収され、詳細は現在でも一部が未公開のままである。
次回予告:
👉 第2話:「テスラ構想は本当に実現可能だったのか?〜科学とロマンの交差点〜」につづく。
世界を変える発明には、いつだって“狂気”と“夢”が混ざっている。──ニコラ・テスラ
参考資料:
- “Tesla: Man Out of Time” by Margaret Cheney
- ニューヨーク州立歴史記録
- テスラ記念協会(Tesla Memorial Society)
- declassified FBI files on Nikola Tesla