2025年9月18日、量子コンピューティング分野にとって象徴的なニュースが走った。リゲッティ・コンピューティングがアメリカ空軍研究所(AFRL)との契約を発表し、3年間で580万ドル(約8.6億円)の研究開発を担うことになったのだ。パートナーはオランダの量子スタートアップ、QphoX。この2社は協力して、超伝導キュービットを光ファイバーでつなぐための「マイクロ波‐光子変換」技術に挑む。
💰 契約の中身──小さな数字の大きな意味
契約額だけを見れば、580万ドルというのはテック業界では決して大きな数字ではない。むしろコンビニ1店舗の数年分の売上に近い水準だ。しかし投資家が注目したのは金額そのものではない。この契約が「アメリカ空軍が公式に量子ネットワーク研究に踏み出した」という事実であり、リゲッティという企業が国家安全保障の文脈で選ばれたことの象徴性だ。
市場は即座に反応した。発表当日、リゲッティ株は**+15%の急騰。D-Wave Systemsは+8%、IonQは+6%、Quantum Computing Inc.は+5%**と、セクター全体が波及的に上昇した。契約規模以上に、「軍事と量子ネットワーク」というキーワードが投資家心理を動かしたのだ。
🔧 技術的チャレンジ──量子ネットワークへの扉
今回の研究テーマは「超伝導量子ネットワーキング」。超伝導キュービットはマイクロ波で動作するが、長距離通信に適しているのは光子である。このギャップを埋めるのがQphoXの強みである「マイクロ波‐光子変換」技術だ。これにより、
- 🔗 離れた量子ノード間でのエンタングルメント分配、
- 🌐 異種量子システム間の統合(heterogeneous interconnects)、
- 🛰️ **量子LAN(QLANs)**と呼ばれる次世代ネットワーク基盤、
といった構想が現実味を帯びてくる。
これはつまり、「単体の量子コンピュータ」から「ネットワーク化された量子システム」への進化の第一歩なのだ。
📈 投資家へのシグナル
この契約には3つのシグナルがある。
- ✅ 技術の信頼性が政府に認められたこと
国家機関の採用は、商業展開において強い信用力となる。 - 🪜 次の大型契約への布石
今回はパイロット契約(お試し導入)の色合いが強い。成果を出せば、より大規模な予算が動く可能性がある。 - 🌊 セクター全体の追い風
リゲッティ単体の話にとどまらず、量子ネットワークという新しい潮流が形成されつつある。
⚠️ リスクと現実
もちろん注意点もある。商用化までには時間がかかるし、技術的課題(光子変換のロスやノイズ、超伝導冷却の制約)は依然として高いハードルだ。また競合他社も同じ領域を狙っており、将来的に勝者が誰になるかは不透明だ。今回の株価上昇も期待先行の側面が強く、短期的には調整が入る可能性が高い。
🌌 それでも──これは「序章」
それでも、このニュースは投資家や技術者にとって大きな意味を持つ。軍事と量子の交差点に初めて明確な契約が置かれた。ここから始まる研究は、やがて「量子ネットワーク」という新しい基盤技術につながっていくかもしれない。
✨ まだ序章だ。量子コンピュータの扉は、いまだ開いてすらいない。だが、その扉の向こうからは確かに、新しい時代の風が吹き始めている。