2024年5月13日に発表された日産自動車の2024年度(2023年4月〜2024年3月)決算は、営業利益698億円、そして最終損益は6,709億円の赤字という衝撃的な内容となった。
だが、この数字をそのまま“転落”と受け取るのは早計だ。実は今回の赤字の大半は、過去の遺産を清算するための「帳簿上の整理」に過ぎず、むしろ中長期で見れば大きな前進である可能性すらある。
売上高は前年並み、にもかかわらず大赤字?
日産の2024年度の売上高は12兆6,332億円。前年の12兆6,209億円と比べてほぼ横ばいであり、本業が急激に悪化したというわけではない。
にもかかわらず、営業利益は前年の5,680億円から約88%減の698億円へ。そして最終損益は赤字転落。この乖離の理由は明確だ──資産の大規模な減損処理である。
固定資産の減損:約4,600億円
今回の決算で最も大きな影響を与えたのが、「固定資産の減損損失」。その額は約4,600億円にも上る。
これは、北米や欧州、日本などで稼働率が落ちた工場や遊休設備など、もはや投資額に見合った価値を生まない資産について、帳簿上の価値を下げる処理をしたということ。つまり、現金が出ていく赤字ではなく、「もう使わない資産」を整理しただけの話だ。
その結果、今後の減価償却費も軽くなり、損益改善に寄与する可能性もある。
税務上の調整と構造改革費用
減損損失のほかにも、
- 繰延税金資産の取り崩し:約2,000億円
- 構造改革費用(人員整理など):約600億円
が一気に計上されている。
これらは今後の税メリットや経営効率の見直しを含めた「将来への備え」でもある。
つまりこれは“痛みの先取り”
見た目には大赤字。だけど中身を見れば、
・売上は堅調
・赤字は帳簿上の処理が中心
・キャッシュアウトは限定的
という点で、実態としての経営危機とは異なる。
むしろ「今このタイミングでまとめて過去を清算し、軽やかに未来へ踏み出す準備が整った」と言っても過言ではない。
社長交代──「Re:Nissan」始動へ
今回の決算発表とあわせて、内田誠社長の退任と新たな外国人トップの就任が発表された。これは単なる人事異動ではなく、構造改革の本格始動=Re:Nissanの出発点を意味する。
過去を精算し、トップを交代し、戦略を刷新する──2024年度の赤字決算は、日産の歴史におけるターニングポイントとなるだろう。
見かけの数字に騙されない眼を
会計上の赤字=経営不振とは限らない。今回の日産決算は、そのことを私たちに教えてくれる。
未来への布石としての赤字。むしろ、この「見た目のインパクト」に惑わされず、**その奥にある経営判断の本質を見抜くことが、これからの時代に求められる“投資眼”**なのかもしれない。
✨ エピローグ:そして、新たなハンドルを握る人へ
2024年度の決算は、たしかに大きな赤字だった。
でも、その内訳をひとつひとつ見ていくと、それは「終わり」じゃなくて、「はじまり」の準備だったようにも見えてくる。
そんなタイミングで日産のハンドルを握るのが、新社長のイヴァン・エスピノーサさん。
メキシコ出身で、ドラムが趣味というちょっと意外な一面もあるけれど、長年にわたって日産の中枢で企画や戦略を担ってきた、まさに“中の人”でもある。
きっとこれからの数年で、彼がどんなドライブを見せてくれるのか──
ごつごつした道を走るのか、それとも新しい道を切り拓いていくのか。
そのどちらにしても、日産というクルマがどこへ向かうのかを見守るのは、ちょっとワクワクするよね。
谷が深ければ、きっとその先に見える景色も、高く澄んでいるはずだから。