2025年春、仮想通貨市場に大きなうねりが走った。特にビットコイン(BTC)の動きは目覚ましく、4月初旬から5月中旬にかけて時価総額が約5000億ドル(=約77兆円)増加するという異例の展開を見せた。
この資金流入は、単なる投機的な上昇ではなく、構造的なマネーシフトの兆候とも取れる。本記事では、その背後にある“資金の正体”を多角的に読み解いていく。
データで見る市場の変化

2025年1月、BTCは約1.7兆ドルの時価総額を持ち、109,000ドルという過去最高値を記録。だが、トランプ政権による関税政策やインフレ不安を背景に、2月末には78,000ドル台まで急落。市場は混乱を極めた。
それからわずか2か月──5月12日時点で価格は約105,000ドルへと回復し、時価総額は2.07兆ドルを超えた。差し引き約5000億ドル、77兆円にも及ぶ資金がBTCへ流れ込んだ計算になる。
この動きには明確な「理由」が存在する。
資金が流入した3つの要因
(1) 伝統的金融資産への不信感
トランプ政権が打ち出した保護主義的な経済政策は、ドル基軸通貨体制の信頼性を揺るがせた。加えて、米国の利上げ継続とインフレ圧力の高まりにより、株式市場や債券市場にも不安が広がった。
こうした「逃げ場のなさ」が、投資家たちをビットコインという“新しいゴールド”へと向かわせた。
(2) ETFマネーの本格流入
ブラックロックやフィデリティなどの現物ETFが立ち上がったことで、機関投資家が間接的にBTC市場へ資金を投入できる環境が整った。
3月から5月にかけてETF経由の買いが積み重なり、マーケットに目立つ買い圧力を生み出していった。表面上は「誰が買っているのか分からない」状態だったが、背後には巨額の年金資金や機関マネーが潜んでいたと見られる。
(3) 米国政府による“売らない宣言”と法案提出
2025年3月、米国政府は「戦略的ビットコイン備蓄」の創設を発表し、押収済みの約20万BTCを市場に放出せず、国家資産として保有すると宣言した。
さらに連邦レベルでは、シンシア・ルミス上院議員が「BITCOIN法案(S.954)」を提出。この法案では、政府が年間20万BTCを5年間かけて新たに購入し、100万BTCを国家準備資産として構築する構想が盛り込まれている。
このように、「売らないだけでなく、買うかもしれない」というダブルのシグナルが市場に強く響き、投資家心理を後押しした。
構造的マネーシフトの兆候?
今回の資金流入は、単なる投機熱ではない。ETFという“見えにくい通路”からのマネー、そして米政府の政策的な関与、さらに既存金融への根源的な不信──これらが重なった時、資金は一気にBTCへと傾いた。
ビットコインが「バブル」なのか、「時代の本流」なのかを判断するのは簡単ではない。しかし、少なくとも今回の77兆円の流入は、それが“信頼の受け皿”として再評価されている証であることに違いはない。
注目すべきは、2025年5月時点の時価総額(約2.07兆ドル)が、価格としては過去最高値(109,000ドル)を下回っているにも関わらず、過去最高水準に達している点である。これは、ビットコインの流通枚数が毎日少しずつ増加していることが主因だ。
ビットコインの時価総額 = 現在の価格 × 流通枚数、という基本構造を踏まえると、価格が最高値に届かずとも、市場規模は「資産全体として拡大」していることになる。つまり、これは投機ではなく、インフラとしての“基盤の拡張”とも言える現象なのだ。
2025年、我々は「デジタル価値の選択」という時代の分岐点に立っているのかもしれない。